レッスン 2

LaTeX を使用する

このレッスンでは TeX システムとは何か解説します.またしばしば LaTeX と共に用いられるテキストエディタやオンラインシステムについても紹介します.

多くのコンピュータ・プログラムと異なり,LaTeX は「あらゆるもの」を含んだ単一のアプリケーションではありません.そうではなく,協調して働く独立した複数のプログラムから成り立っています.そうした一連のプログラムのうち,ユーザが実際に必要とするものは次の2つです:

TeX システム

LaTeX を使用するのにまず重要なことは,TeX システムを利用可能な状態にすることです.TeX システムはいわば「裏方」のプログラムやファイルの集まりで,LaTeX を動かすのに必要なものです.しかし,ほとんどの場合ユーザが直接これらを「実行」することはありません.

今日利用可能な主要 TeX システムは MiKTeXTeX Live の2種類です.いずれも Windows, macOS, Linux で利用可能です.MiKTeX は歴史的に Windows と深く関わってきました.macOS では,TeX Live は MacTeX と呼ばれるより大きなコレクションに含まれています.それぞれのシステムに特長があるので,さらに踏み込んだ LaTeX プロジェクトのアドバイスを参考にするのもよいでしょう.

すべての一般的なプラットフォームで利用可能であること,またパフォーマンス上いくつかの利点があることから,どのシステムをインストールするか決めていない場合には,TeX Live を選択することをおすすめします.なお日本語文書の作成に重要なツールには,TeX Live にしか含まれていないものも多くあります.本チュートリアルで主として利用する pLaTeX も,MikTeX には含まれていません.そのため,日本語文書を作成したい方に対しては TeX Live の利用を強く推奨します

エディタ

LaTeX ファイルは単純なテキストファイルなので,どのようなテキストエディタを用いても編集することが可能です.とはいえ,基本的には LaTeX 向けに設計されたエディタを利用するのが便利です.そうしたエディタの多くは,1クリックでファイルをタイプセットするボタンや内蔵の PDF ビューア,あるいはシンタックス・ハイライトなどの機能を備えています.最近の LaTeX エディタは SyncTeX という特に便利な機能を有しています.これを利用すると,ソースのある部分をクリックするだけで PDF の対応する箇所にジャンプすることができ,また逆向きのジャンプも可能です.

LaTeX エディタはここには書き切れないほどたくさんあります.StackExchange に網羅的なリストがあるので,必要なら参照してください.基本的なエディタである TeXworks は Windows および Linux において TeX Live/MiKTeX に含まれています.また MacTeX には TeXShop というエディタが同梱されています.

どのエディタを選ぶにせよ,TeX システムよりも後にインストールすることを推奨します.その順であれば,エディタはコンピュータ内の TeX システムを「見つける」ことができ,適切なセットアップを行うことができます.

オンラインを活用する

最近では便利なウェブサイトがいくつもあり,それらを活用することで TeX システムや LaTeX エディタのインストールを一切しないという選択も可能です.こうしたサイトを利用すると,ファイルをウェブページで編集した上で LaTeX をオンラインで実行し,さらに生成された PDF を表示することもできます.

サイトによってはワードプロセッサのような機能と LaTeX を組み合わせたものもありますし,そうではなく LaTeX コードをありのまま見せることに注力しているものもあります.後者のタイプのサイトの使用感は,手許の PC に TeX システムをインストールしているときと似たようなものになるでしょう.

また,中にはログイン不要で LaTeX を実行することのできるものもあります.このチュートリアルでは,そうしたサイトの1つである TeXLive.net を活用して,実際にコード例を編集したりテストしたりできるようにしています.よりしっかりした文書を作成するのに適したオンラインサービスを利用するには,事前のユーザ登録が必要です.そうすることで,ユーザは自分の文書を保存することが可能になり,またサービスにとっては過剰な負荷を回避することができます.このチュートリアルでは,コード例を Overleaf で編集できるようにするためのリンクも設置しています.Overleaf はオンライン LaTeX 環境として最もメジャーなものの1つです.もちろん,他にも Papeeria など類似のサービスがあります.また Cloud LaTeX というサービスは,日本企業により運営されており,特に日本語のサポートが手厚くなっています.

第三者と協力する

作成した LaTeX ソースを他の誰か(出版社や学会主催者,あるいは arXiv 等のプレプリントサーバ)に引き渡す予定がある場合は,送り先の指定をよく確認するようにしてください.

練習問題

手許の PC に LaTeX をインストールするか,またはオンライン LaTeX サービスの1つにアカウント登録をして,LaTeX を利用可能な状態にしましょう.手許に LaTeX をインストールすることにした場合,テキストエディタも選ぶ必要があります.最初は TeXworks または TeXShop を利用することをおすすめします(先述の説明を参照).他のエディタは,ある程度 LaTeX が使えるとわかった段階で試してみるのがよいでしょう.

このチュートリアルに登場するすべての練習問題をブラウザ上で実行することができますが,本チュートリアルの目的は読者の皆さんが実際の文書作成を LaTeX によって行えるようになる手助けをすることなので,ぜひこのタイミングで LaTeX を利用できる環境を整えておいてください.