レッスン 5

文書クラス

このレッスンでは文書クラスとは何で,それがどのように文書のレイアウトに寄与するのかについて説明します.そして TeX ディストリビューションに含まれる主な文書クラスを紹介します.

文書クラスの役割

賢明な読者は,既にすべての LaTeX 文書は文書クラスを宣言する \documentclass から開始され,さらに言えば \documentclass{jsarticle} が最も一般的な選択肢であるということにお気付きでしょう(もっとも,前回のレッスンでは \chapter コマンドを試すために \documentclass{jsreport} が必要になりましたね).お察しの通り,この宣言はあらゆる LaTeX 文書で必須のもので,(ほとんどの場合)常にファイルの先頭に置くべきものです.

文書クラスは,これから作成する文書の全般的なレイアウトを設定します.具体的には,以下のようなものが設定されます.

文書クラスは,もっと広範に各種の新しいコマンドを追加する場合もあります.この傾向は,特に特殊な用途のクラス(例えばプレゼンテーション用のスライドを作成するためのもの)で顕著です.

文書クラスの宣言では,さらに文書全体に適用されるグローバル・オプションを設定することもできます.これらは角カッコ内に列挙する形で与えることができます:\documentclass[<オプション>]{<文書クラス>}.角カッコで省略可能なオプションを与えるこの書式は,LaTeX のさまざまなコマンドでも同様に採用されています.

基本の文書クラス(和文用)

本チュートリアルでは pLaTeX2e 新ドキュメントクラス (jsclasses) を基本の文書クラス(和文用)として採用しています.これには,見た目こそよく似ていますがいくつかのバリエーションがあります.

既に見てきたように,これらの標準的なクラスではいずれも似たようなコマンドが利用できます.また,いずれのクラスも 10pt, 11pt, 12pt などのフォントサイズを変更するオプションや,文書を2段組に変更する twocolumn オプションを受け付けます.

基本の文書クラス(欧文用)

ここで LaTeX 標準で提供されているクラスについても紹介しておきます.これらはいずれも欧文用の文書クラスで,和文組版には適しません.

article, report, book でも,やはり互いに似たようなコマンドが利用可能です.手紙用の letter クラスでも同様のコマンドが利用できますが,少し異なる点もあります.

\documentclass{letter}
\begin{document}

\begin{letter}{Some Address\\Some Street\\Some City}

\opening{Dear Sir or Madam,}

The text goes Here

\closing{Yours,}

\end{letter}

\end{document}

住所の各行が \\ によって区切られていることに注目してください.改行についてはもう少し後で扱います.また letter クラスが1通の「手紙」のために letter 環境を作成し,またいくつかの特別なコマンドを定義している点にも注意してください.

ところで,欧文用の article, report, book クラスでもやはり 10pt, 11pt, 12pt などのフォントサイズを変更するオプションや,文書を2段組に変更する twocolumn オプションが利用できます.

高機能な文書クラス

上で紹介した標準的な文書クラスはとても安定しているのですが,一方でデザインも使用可能なコマンドも極めて保守的です.これまでに,より強力な文書クラスも多数作成されてきました.そうした文書クラスを用いると,(いずれ本チュートリアルでも紹介するように)自分で一からコードを書かなくても,簡単にデザインを変更することが可能になります.

和文用のクラス

和文用の「拡張」汎用文書クラスとしては jlreq クラスが挙げられます.これは W3C コンソーシアムの策定する「日本語組版処理の要件 (JLREQ)」に準拠した文書作成を目指した文書クラスで,横組み・縦組みの両方に対応しています.

欧文用のクラス

アメリカ数学学会 (American Mathematical Society; AMS) は,伝統的な数学ジャーナルの見た目により近いデザインを実現する標準文書クラスの変種 amsart, amsbook を提供しています.

大規模かつ人気のある二大「拡張」文書クラスは KOMA-Script バンドルと memoir クラスです.KOMA-Script は3種類の標準文書クラスに「対応」するような3つのクラス scrartcl, scrreprt, scrbook, scrlttr2 を提供しています.一方 memoir クラスは単独の文書クラスで,book クラスの拡張に相当します.

こうした拡張文書クラスは数多くのカスタマイズ用フックを提供しています.そのいくつかを,本レッスンの練習問題で扱います.こうしたクラスにどのようなフックが用意されているかを把握する方法は後のレッスンで扱います(もちろん,途中を飛ばして先に見てしまっても構いません).

プレゼンテーション

欧文用標準文書クラスの1つに slides があります(実は jsarticle には slide オプションがあり,これを用いても和文スライドを作成することができます).この文書クラスは1980年代中頃に物理的なスライドを作成するために開発されたもので,PDF ベースのインタラクティブなスライドを作成するための機能は一切ありません.現代では,そうした機能をもつより現代的なスライド用の文書クラスも存在します.それらは一般的な LaTeX 文書と比べると幾分特殊な部類に属するので,本レッスンの追加解説で扱います.

練習問題

文書クラスを変更する方法を試してみましょう.次の欧文 LaTeX 文書のクラスを KOMA バンドルに含まれる文書クラスや memoir クラスに変更すると,最終的な見た目がどのように変化するでしょうか.

\documentclass{article} % ここのクラスを変更します

\begin{document}

\section{Introduction}

This is a sample document with some dummy
text\footnote{and a footnote}. This paragraph is quite
long as we might want to see the effect of making the
document have two columns.

\end{document}

さらにクラスオプション twocolumn を追加して,レイアウトがどのように変化するか確認してみましょう.

上記の欧文文書ソースについて使用クラスを scrreprt に変更し,さらに \section\chapter に置き換えてみましょう.さらに次のクラスオプションを使用するとどうなるか確認してみてください.